吹雪の雪原。
 視界がかすむほどの白の中を進む一人の男がいた。

 黒い髪を靡かせながら、その男は真っ直ぐ進んでいく。
 彼が雪原の中を進む理由。それは真実を知る為。
 彼は、ただ本当の事を知りたかった。自らの最愛の人の行方を知りたかった。
 だから彼は進み続ける。過去を振り返らずに、ただ真っ直ぐと。
 風は彼に囁く。「貴方を待つ恋人は氷の女王の城」と。
 風は彼に囁く。「さあ、早く早く。助けるために」と。
 その声の導くまま、彼は進み続けた。とても長く険しい道を。
 そして、遂に彼は見つけた。冬に鎖された世界の中に聳え立つ氷の女王の城を。
「ああ……。やっと、やっと……っ」
 彼は震える手でその城の扉を開けた。
 城の中へ入った彼が目にしたのは、広間の奥にある階段。そして、その階段を登った先にある王座とそれに座っている可愛らしい白き少女。
 そう、彼女こそが女王。この冬の世界を統べる氷の女王。
 彼女は、焔のような緋色の瞳で彼を見下ろした。そして、静かに口を開く。
「探し物かしら?」
「ああ。恋人を探しているんだ。何処に居るか、貴方ならば知っているだろう」
 彼の問いに、少女は緩やかに微笑んだ。
「ええ、知ってるわ。其処の扉を開いた先よ」
 彼女は自らの右手で一つの扉を指差した。その手が指す扉を確認した彼は、迷うことなくその扉に手をかけた。
 その背中を見つめながら少女は呟く。
「もう貴方の最愛の人は帰ってはこないのに」

 扉を開け部屋へと入った彼は、一人の娘を見つける。硝子の棺に眠る彼女を。
 その人こそ、彼が探し続けていた最愛の人。
「っル……、エル……。やっと見つけた」
 彼は彼女に手を伸ばし、彼女の頬に触れた。その頬は氷のように冷たい。それでも、彼は微笑んでいた。
「お帰り、エル」
 そして、彼は彼女に口付ける。ようやく見つけた、もう二度と帰ってはこない恋人に。

「うふふっ! ねえ、あの人はこの後どうするのかしら?」
 白き少女は、男の背中を見送ったあとにそう言ってにこやかに笑った。
 少女の問いかけは、彼女が腰掛ける椅子の後ろで彼女に背を向けている青年へのものだった。
「さあ、どうだろう。僕には分からないよ。彼じゃないからね」
「もう、少しは考えてみてよぅ!」
 青年の返答に、少女はむくれて言った。
「氷の女王の城は単なる幻影。この世界で死したものたちの不屈の決意が描く幻想。彼らは一体何を置き忘れたのか。そして、物語は雪に霞みゆく」
 青年は不意にそう囁いた。その手には紺のハードカバーの本が一冊。
 青年の方に振り返り、少女は笑った。

 そしてまた一人、忘れものを探す旅人が雪原を彷徨う。
 彼らの旅は永遠に終わらない。
 その物語を時渡りの詩人が紡ぎ続ける限りは。



 古びた小さな小屋に石筆を置く音が響いた。それと同時に、一人の少年が顔を上げた。
 石筆で紡がれた物語は彼の幻想。
 繰り返す歴史の中に見る、一つの御伽噺。

 そして、雪原には一人の男の亡骸。
 その亡骸を見つめるのは、永遠を手に入れた楽師。



 今回のゲームはどうだっただろう、諸君。
 気に入ってもらえたかな?
 私としては上々の出来だったのだが。ん? どこら辺が上々か分からないって?
 ああ、君達には理解できなかったか・・・・・・。実に残念だ。
 まあいい。さて、次のゲームに移るとしよう。
 次こそは、諸君に気に入ってもらえると嬉しいのだがね。



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