とある国の王女の生誕の日。城では宴が開かれていた。
 その城に、王女に詩を贈ることを命じられていた吟遊詩人が一人。
 彼はその瞳の奥に、昏き闇と紅月の煌き、そして紫の焔を宿らせて、約束の時を待っていた。

 そして、来たる運命の時――

 その宴の場に招かれていた国中に散らばる賢人たちは、王女に祝いの言霊を贈る。
「姫様へのお祝いに私めは、美徳を贈りましょう」
 一人の賢者が言う。
「私は、祝いに多福をお贈り致しますわ」
 また一人の賢女が言う。
「私は、長寿を」
「では、私めは……」
 また一人、また一人と祝いを添えていく。しかし、その中で本当の『祝い』を贈ったのは、誰一人としていなかった。
 全ての祝いは呪いとなる。
 それに気付かない愚行の王は、笑みを深めていった。

 賢人たちが祝いを贈り下がったころ、一人の男が青年を連れて王座の前へやってきた。
 王の前に一人の青年が跪く。
「陛下。姫様へ詩を贈りたいと申し出てまいりました吟遊詩人をお連れ致ししました」
 青年を連れてきた近衛兵が跪いて告げる。
「そうか。お前は下がれ。……吟遊詩人よ。面をあげよ」
 王は近衛兵が下がったのを見ると、青年に言う。しかし、彼は面を上げなかった。
「愚かよ、吟遊詩人。余がその醜き面を上げても良いと言っている」
 その言葉に、漸く彼は面を上げた。その菫色の瞳は、真っ直ぐ王を見つめる。
「吟遊詩人よ。名を申せ」
「……ハレットと申します。殿下」
 王に向かって、彼は淡々と名を名乗った。
「そうか。では、ハレット。我が娘に詩を捧げよ」
 そう言って、王はハレットを見下ろす。その視線を気にもせず、彼は唇を開いた。

凍土の里 樹氷の王
生まれ落つ 薄氷の君

季節は廻り 時は流転し
第一の柱の下に 生まれ落つ姫

光陰は矢の如く
娘もまた母となる

美しき花も何れ子を生し
美しく散り逝く運命

今この時 生まれ落つ姫も
美しき冬薔薇となり得ましょう

「ほう……。それは、娘は美しき姫になるということか?」
「ええ。それはそれは美しき姫となり得ましょう。殿下と同じく、第一の柱の下に生まれ落ちたのですから……」
 その言葉を聞き、王はとても機嫌を良くした。
 その詩が、この国の命運を左右するとも知らずに。

 宴も終わり、城から解放されたハレットを待っていたのは、宴に招かれていた一人の賢女だった。
「これは賢女殿。こんなところで如何なさいましたか?」
「あなたを待っていたのよ。あなたの詩は素晴らしかったわ。祝いの中に呪いを潜ませて、花開くこと待つ……」
 賢女は妖艶な笑みを浮かべて言った。その言葉に、ハレットは僅かに顔を歪めた。
「・・・・・・何のことでしょう?」
「惚けなくてもいいのよ。私達の中でも、本当の祝いを贈ったものなんていないもの。そこに加えてあなたの呪歌だなんて。ふふっ……。本当に呪いが花開くのが楽しみね、ハレットさん?」
 そう言うと、賢女はその場から立ち去っていった。
 其処にただ一人残されたハレットは静かに唇を開く。

第一の柱――即ち、傲慢
美しき冬薔薇――即ち、暴政
美しき花も散り逝く運命
全ては、冷たき土の下へ――

 翌日、彼は無実の罪で断頭台に送られ、そのことにより王は民衆の怒りを買い、詩人と同じく断頭台に送られた。

 そして、来たる約束の時――

 王が処刑される約束の日。
 それを見ていた幼き少年と旅歩きの楽師がいた。


 その数年後、女王となった冬薔薇は病に倒れ、新しき『薔薇の聖女』が王位に就くこととなる。

 その運命を導きだしたのは、一人の詩人か。はたまた、多くの賢人達か。
 その真相を知る術は、ない。



 おやおや、今回は随分と簡潔に終わってしまったようだね。
 しかも、何者かによって何ページか切り取られてしまったらしい。
 全く、誰の仕業だろうね? まあ、凡その検討はついているが。
 本当に私と『彼女』は『彼』に嫌われているらしい。その要因を作ったのは私達だがね。
 仕方ない。もう既に、切り取られたページは『彼』の手によって虚無とされてしまっているだろうから、次のゲームに移るとしよう。



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