サリュ、アンシャンテ!

 突然ですが問題でーす。世界の全てを幸せにするにはどうしたらいいでしょうか?
 そんなの知るかって? 即答しないでよ、虚しいじゃん。というか、誰と話しているのかって?
 そんなの、キミしかいないじゃん。キミだよ、キ・ミ!理解できてる? ドゥーユーアンダースタンド? おっけーかな?
 お前、誰? って思ってんじゃないの? そこは気にしちゃ駄目さ(笑)

 ところで、ボクは思うんだよね。味方を作るから敵が出来るんじゃないかって。
 全てを幸せにしたいなら、敵も味方も必要ないと思うんだ。でも、人間ってやつは哀れで、惨めで、儚くて、嘘吐きだからいけないよ。
 ……まあ、そこが可愛いんだけどね。

 あ、そうそう。キミは今、幸せかい? そっか、幸せか。
 じゃあ、キミの幸せを不幸な人達に分けてあげなよ。嗚呼、ごめん。無理だよね。
 だって、それは幸せじゃない。ただの偽り、嘘、虚像、幻想。全てはキミの錯覚にすぎない。
 他人を不幸と決めつけて、キミが造り上げた虚構の城なのさ。その逆もまた然り。
 可哀想、本当に可哀想だね。可哀想で、悲しくて、愛しい。キミもボクも、みんな同じ。虚ろな主観で全てを決める愚者なんだよ。
 誰かが傷付いたら、みんなで痛み分けをしてあげるのが優しさだと思うんだよ、ボクは。同情なんて偽善。ただの自己満足だよね。
 この世界に、真実の善も本当の悪も存在しない。
 自我で決めた境界線なんて、何の役割も果たさない。だって役割を持ってないんだから。
可笑しいと思わない?笑っちゃうよね?
 だって、キミが決めた境界線になんて意味は無いのだから。それは、キミの思考が何の意味も持たないことを示しているんだよ。
 何を言っているか分かんないかな?
 つまりはね、キミの存在が定めた境界線が、不条理を、痛みを、苦しみを、憎しみを、侮蔑を生んでいるんだよ。
 それは、人が存在し始めたときから続いている。そして、これからも続いていく。ノアの方舟の神話や神々の黄昏にあるように、一度、虚無に還った後でさえ、それは続いてきた。

 どうしたら、みんな幸せになれるかって?
 そんなの答えは明明白白じゃないか。負の根本を正せばいいのさ。
 じゃあ、その負の根本とは何か? それが最大の謂わば問題なのさ。
 人は、一体どこから誤りを正せばいいのか。キリストの死か、それとも最後の晩餐か。或いは、ユダの裏切りか、契約の箱か。それとも、アブラハムの誕生からなのか。楽園喪失自体が間違いだったのだろうか。
 過去の事象を完全に知り及ぶことは不可な上に、人の虚ろな主観では根本を審理することは出来ない。だから、正せばいいと言いながらも正すことは出来ないんだよ。
 勿論、ボク達は根本から逃げることは出来ないし、進むことも出来ない。それ故に、何かを得れば、何かを失う。等価交換ってやつさ。物語だって、幸福ハッピーエンドを迎えるには不幸アンハッピー))が必要だろう。そういうことさ。

 結局のところ、人というのは存在という鎖に囚われ続け、根本に存在する罪を背負い続ける。その上で、尚も生き続けるのさ。奪い、奪われ、求め、喪いながらも。

 人の中にはさ、死の本能っていうものがあるんだ。
 それは、人が生まれ落ちたときに抱いてくるものなのさ。
 死の本能っていうのは破壊衝動のことでね、それは事物を解体し、破壊しようとする欲求のことなんだよ。この欲求は、根源的な無生物の状態に戻ろうと欲求とも考えられるんだ。
 きっと、それはゼロに還ろうとする本能なんだと思うよ。
 そう考えると、人は、根本より以前に還ろうとしているのかな? 本能的に。
 ……何?そんなこと聞くなって? だって一人で話すのもつまらないだろう。まあ、いいや。
 でも、ゼロの還ったところでまた同じことの繰り返し。生きて死んで、死んだら生まれて。繰り返す歴史の中で、変革は起きても、時の流れに沿って退化して灰となり、進むことは出来ない。

 どうすれば、先へ進めるかって? それをボクに聞く? まあ、いいや。
 先ずは、思考を止めないことじゃないかな? えっ、最初に言っていたことと違うって? 違うよ。ボクが言いたいのは、思考し続けろってことさ。止まった思考に意味は無い。それは結論じゃない。人の一生という短さで、世界の結論が出るわけないじゃないか。
 次に、行動することじゃない?いくら思考しても、行動にしなければ分からないからね。テレパシーなんて不可能なんだから。あとは、試行錯誤を重ねていく。出来ることといったら、それくらいじゃないか。
 というか、解決方法くらい兄弟同士で考えてよ。ん? 兄弟なんて居ねえよバカって? そうじゃなくてさ。ほら、人類みな兄弟っていうじゃん? だから、あとは他人ボクに聞かずに、人間アナタ達で考えてよ。真の理想を、ね。

 最後に一つだけ。キミは、死への存在であることを認識してよ。
 人はね、いつか確実にやってくる死の事実を直視して、それに臨む存在となって自己の真の実在を確立するのさ。柱が定まっていなければ意味がないからね。ホンマツテントーってやつにならないでよ。

 それじゃ頑張れ人類諸君!

 
リゼルヴァの手記より


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